2023.12.06
「ともにつくる靴」をコンセプトに、お客さまのオーダーを細やかにヒアリングしながらオーダメイドの革靴を手がけるブランド「HIBI」。靴をつくる田中康雄さんは、専門学校を卒業後、地道に靴づくりを追求し、メーカーでの仕事や周りの職人から技を学びながら腕を磨いてきた。「靴づくりは、常に修行だ」という田中さんの、靴づくりにかける思いとこだわりについて伺った。
ファッション性と足への思いやりが共存するデザイン
編集部:田中さんの靴づくりについて教えてください。
僕のアトリエは週末だけ開く小さな場所です。そこに、わざわざ来ていただくお客さまは、足に関する悩みを抱えておられるケースが多く、それぞれに合うやり方でフィットする靴をつくることを心がけています。足の形にあわせて木型からつくる場合もあれば、既存の木型と素材をカスタムしてオーダーいただくこともあります。靴をつくるとき、足に対して心地よい構造で、履いていてしんどくないことは必須条件。それらをクリアした上で、その人の雰囲気やファッションに合うデザインを追求したいんです。足に合わせて履きやすい靴をつくっていくと、つま先がポテっと丸い仕上がりになってしまうことが多いのですが、そういう場合であっても、お客さまのコーディネートと違和感がないようなデザインを心がけます。例えば、ステッチの配色にこわだってみたり、エッジの効いたシルエットに挑戦してみたり。足に対するちょっとしたやさしさ、そして、その人らしさを、履き心地にプラスすることが僕にとっての“デザイン”なのかなと。
カスタムでつくる、ハイパフォーマンスなスリッポン
編集部:今、イチオシの靴について教えてください。
“シンプルで脱げにくく、職人さんが履いてもかっこいい靴”をコンセプトにつくった「カスタムオーダー・スリッポン」ですね。これまでの仕事で、家具職人さんや大工さんたちとたくさん出会ってきました。工事や納品のために靴の着脱することが多く、スリッパを履いている方をよくみかけるのですが、それでは動くとすぐに脱げてしまうし、せっかくの職人さんの風格や品格が隠れてしまうような気がして。そこで、機能的でありながらかっこよく見える靴を目指して完成したのが、スリッパのように履けるスリッポンです。甲の高さを微調整し、作業着とあわせるとエンジニアブーツのように見えて無骨な雰囲気に。動いている時は脱げにくい踵を設計。スリッポンは、普通に履いていても動いているときに脱げやすいじゃないですか。だから、1ミリ単位での修正と試作を繰り返して、半年くらいかけてようやく今のデザインにたどりつきました。革とソールを選んでいただき、お客さまの足の形にあわせてカスタムオーダーでおつくりする靴で、靴メーカーで出た余りの革を使うことでコストを抑えています。
履く人と一緒に喜べる一瞬を、ともに味わうために
編集部:革靴をどのように履いてほしいと思われていますか。
一般的に革靴は慣れてくるまでは痛いと言われますが、靴は日常的に履くもの。だからやっぱり僕は、初めの一歩から心地よいと思ってもらえる靴をつくりたいと思ってます。そのため、フルオーダーの場合は、まず”仮靴”をつくって試着していただきます。歩き方のくせや痛いところを確認して微調整を繰り返し、仮靴でOKが出てはじめて、本番の靴づくりに進みます。最低3ヶ月はかかりますし、価格は高く感じられるかもしれません。でも、常に、お客さまのイメージを超えていきたい。僕、もともとバンドマンなんです。もしかして、靴づくりってライブと似ているのかもしれないと感じることがあります。ステージに立つと、どんな反応があるのかこわいんだけど、音を奏で始めると観客がわっと盛り上がるたまらない一瞬がある。靴づくりをしていても、お客さまがよろこんでくれる特別な瞬間があって。僕はあの気持ちを味わいたくて、靴をつくり続けているのかも。足の形はそれぞれ違うから、靴づくりに正解はありません。だから、靴づくりは修行だということを肝に銘じて、成長していきたいと思ってます。