2023.12.06
1989年に創業し、主にスポーツシューズ底のOEMを行うメーカー「中谷加工所」。兵庫区に本社・工場を構え、社内で一貫生産体制を取ることで小ロット・多品種のオーダーにも応えてきた。本社の八木幸代さんと企画営業部長・清谷典子さんを訪ね、メーカーとしての歴史や2020年に立ち上げたファクトリーブランド「COLiNKiiKA(コリンキッカ)」のスニーカーについてお話を伺った。
夢だった、自社ブランドの立ち上げ
編集部:自社ブランドを立ち上げられた経緯を教えてください。
八木:創業当初は大手スポーツメーカーさんからの依頼で靴を製造していました。阪神・淡路大震災がきっかけで靴底の生産がメインになって、並行して登山靴などアウトドアシューズの修理事業も続けていました。そして、2016年に法人化して現代表に代替わりした際、靴底以外の部分も含めたスニーカーのOEMにしっかり取り組むようになりました。
清谷:震災以降はまわりで海外生産の靴が多くなりましたが、中谷加工所の靴底に関してはすべて神戸産、靴底以外の素材も国産にこだわって続けてきました。自社ブランドでのスニーカーづくりは前々から夢としてあって、コロナ禍でようやく手が少し空いたタイミングで立ち上げに至りました。2020年9月2日の“靴の日”、スニーカーの自社ブランド「コリンキッカ」を発表しました。
八木:現在のサイズ展開は男性も意識していますが、元々のターゲットは30、40代の女性です。スポーツメーカーさんが手がけるスニーカーはスポーツ感がやや強い印象がありますが、私たちはちょっとかわいくておしゃれに履いてもらえるスニーカーを目指しました。日常のなかで「はずむ心」と「彩りある毎日」を提供するというコンセプトがあって、どんな服にも合わせやすいシンプルなデザインと豊富なカラー展開を用意しています。履き心地を確認する目的もありますが、仕事中でもそうでなくても好んで履いている社員が多いです。
足元で輝く“きっかけ”のスニーカー
編集部:今、イチオシの商品を教えてください。
八木:こちらは2022年に発売したコリンキッカのシリーズ第3弾「Beryl」で、カラー名は「ラベンダー」。幅広のラインで、ベロア(起毛革)と生地を使った異素材コンビスニーカーです。第1弾「Citrine」はシンプルなオールレザーで少し細身。男性にも人気でスーツにも合います。第2弾「Amber」は神戸の海をイメージした波のラインが入ったデザインでスポーティー。
清谷:ライン名はそれぞれ緑柱石、黄水晶、琥珀といった宝石の英語名を付けています。足元できらめく存在であってほしいという想いを込めていて、これは女性が多い職場ならではのネーミングかもしれませんね。それと、カラー名は和菓子や飲み物、植物の名前などいろいろです。名前は和気あいあいとみんなで案を出して決めています。
八木:スニーカーの履き心地にはかなりこだわっています。中底もアッパーに使う国産レザーもほどよいやわらかさで、長時間履いても足に負担を感じさせないようにしています。スニーカーづくりにはいろんなパーツが必要ですが、生産の全工程を自社で完結している会社は国内では少ないはず。「コリンキッカ」は細胞の構成要素「コリン」と、きっかけの「キッカ」を組み合わせた造語です。たくさんのパーツを自分たちの手で丁寧に組み合わせて、細胞が集まって生まれたような靴なんです。私たちとお客様が出会うきっかけの商品になれば。そんな気持ちで名付けた靴です。
単なる流行ではなく、日常に残る靴を
編集部:靴づくりを長く続けるために取り組まれていることはありますか?
八木:SDGs(持続可能な開発目標)の取り組み例としては、まず受注生産であることが挙げられます。注文を受けてから15~20営業日ほどいただいて出来立ての靴をお客様にお送りしているので、売れ残って廃棄処分する靴はありません。中底にはコットン100%を使用するなど、素材選びにおいても環境負荷の軽減を心がけています。
清谷:中谷加工所のオンラインストアからスニーカーをご注文いただけますが、現状ではカスタムオーダーを受け付けていません。百貨店さんの催事では靴底の厚みや色、アッパーの素材や色などを変更して自分だけの一足をオーダーできるのでオススメです。アンケートにあるお客様の声を読むと、お気に入りの靴は大切に履き続けてもらえている実感があります。
八木:ご購入いただいたお客様には、催事や本社にスニーカーをお持ちいただければ、お預かりして消臭・防水と簡単なお洗濯の対応をしています。スニーカーは寿命が短いイメージがあるかと思いますが、コリンキッカは長持ちするとよく喜ばれます。先日催事に来られた方は2年前にコリンキッカを購入してほぼ毎日履いていたそうですが、手入れされていたからかアッパーはきれいで、すり減った底を替えればまだまだ履ける状態でした。今、靴底のリペアなどの修理サービスをご提供できるように準備を進めています。時代が変わっても長く使ってもらえるようなものづくりをこれからも続けていきます。