2023.12.06
靴職人の内尾暢志(のぶゆき)さんが2015年に立ち上げたセミオーダーブランド「ミサキシューズ」。革靴とスニーカーの中間のような履き心地が特徴だ。内尾さんは神戸ものづくり職人大学で靴づくりを学びながら、国内外の職人を訪ねて一つひとつの工程に対しての知識を深め、独立に至った。建築士やバーテンダーの経験はいかに靴づくりに活かされているか、なぜカジュアルラインを始めたのか。元町にあるミサキシューズの店舗を訪ねてお話を伺った。
対話を重ねて引き出す足の悩み
編集部:普段はどこで、どのような靴づくりを行なっていますか?
神戸市が運営していた神戸ものづくり職人大学の在学中に職人仲間と共同で構える工房「KNOCKS:BESPOKE(ノックス ビスポーク」を和田岬でオープンしました。普段はその工房で昼すぎまで靴をつくってから、ミサキシューズの店舗に移動して採寸・販売をおこなっています。木型からつくるフルオーダーの場合は一人ひとりの足の悩みに合わせて、デザインと履き心地が両立した靴づくりを心がけています。履く人の声を丁寧に拾って形にすることができるのがビスポークシューズ(顧客と話しながらつくるオーダー靴)のよさではないでしょうか。大学時代は夜にバーテンダーの仕事をしていて、会話スキルを磨きながらお客さんの足や靴をよく見せてもらっていました。また、靴業界に入る前は設計事務所で働いていたので、建築的な荷重を分散させる考え方は靴づくりにも活かされています。いろいろな経験や自分の体験を活かしながら、その人に合ったオーダー靴を製作しています。
工房のある岬で生まれた、セミオーダーシューズ
編集部:今、イチオシの商品を教えてください。
セミオーダーラインの「ミサキシューズ」です。こちらはくるぶし丈のチャッカブーツで、羽根(靴ひもを通す穴部分の革)が甲部分にかぶさる「外羽根式」のデザイン。これ以外にも内羽根式やローファーなどのモデルがあって、靴ひもの下にサイズ調整用のフォルスタンを入れる、ステッチをダブルに変更するといったカスタマイズも受け付けています。基本的にはモデルと革を選ぶだけで注文できるので、オーダーの革靴が初めての方にとっては価格も含めてハードルが低いと思います。アッパーには厚みのある天然皮革、ソールにはクッション性に優れたビブラム社製の軽い厚底を使用しています。足の筋力が必要以下に落ちてしまわないように、中底にはインソールではなく革を使っています。フットプリントが付くと、足に自然と馴染んでいきます。ミサキシューズは元々、和田岬の工房で作業をする自分用につくりました。革靴とスニーカーの合いの子のイメージで、靴下のような味わいの靴を目指しました。僕の靴を目にしたお客さんからの反応がよかったので、革靴のカジュアルな入口になればと思って注文を受けるようになって。ミサキシューズを履いてからフルオーダーの靴を購入してくれる人も多いのでうれしいです。
“あつらえる街”の文化をふたたび
編集部:他の方と協働で取り組まれていることがあれば教えてください。
ミサキシューズがある建物の1階には、靴・鞄のお直し専門店「RECUPERO(レクペロ)」があります。靴の修理を希望する方をレクペロさんに紹介したり、うちの工業用ミシンを貸したり、互いにできないことは補い合っていますね。靴のお手入れ教室を開かれているので、つくった靴を長く大切に履いてもらえるきっかけにもなっていると思います。それと、神戸に拠点を置く靴職人グループ「MAKING THINGS」の一員として他府県で展示会などを行なっています。最近みんなで話しているのは、神戸を“あつらえる街”にしたいということ。靴産業の衰退を嘆く人もいるけど、そもそも僕らは栄えていた時代をあまり知らない。神戸には神戸靴・神戸洋家具・神戸洋服などオーダーメイドの文化がまだ残っているのだから、僕らが街の靴屋として根ざしながらも外に出ることで、靴をつくりに行こうと思ってもらえる街になればいいなと考えています。活動をしているといろんな材料屋さんとも知り合えて、可能性が拓けてきます。旧態依然でいるより、新しいことを始めるほうが僕は好きですね。今はスニーカーの商品開発を進めているので、楽しみにしてもらえたら。