2023.11.21
2004年に設立したシューズブランド「アレッツォ」。 長田区に本社・ショールームを構え、トレンドを効かせたベーシックなデザインで靴の企画・製造・卸・販売を行っている。アパレルメーカー とのOEM事業に加え、近年はオリジナルブランドの企画にも力を入れている。代表の水谷義臣さんを訪ね、発売から10年以上のロングセールを記録しているストレッチサンダル「ラゴンマ」や、 企画販売と製造の役割を分けた経営スタイルについてもお話を伺った。
ブランド名は、靴を愛する街の名前から
編集部:水谷さんの靴づくりに関わる経緯を教えてください。
実家が靴の製造工場を営んでいて、幼い頃からたまに手伝っていました。高校卒業後、家業を継ごうと思って浅草の専門学校で靴づくりの基礎を学びました。
学校が終わった後に、靴販売のアルバイトもして渋谷でやらせてもらって。足入れのチェックの仕方、履く人が気になるポイント、売れるデザインなど、実際の販売の現場での経験が勉強になりました。その後はイタリアのミラノにある靴職人養成学校で半年間、紙型製作などパタンナーの勉強をしました。そして、トスカーナ州の都市「アレッツォ」にあるシューズメーカーに1年半勤務してデザインを学んでから帰国。地元の人たちのやさしさに感動したことがきっかけで後々、街の名前を社名にしました。2004年設立のアレッツォは企画販売を、兄が代表を務める三福は製造を担っています。アレッツォは窓口全般を担当しているので、ユーザーやOEMのお客様の声を製造側にいかにうまく伝えるかが大切です。つくり手目線と売り手目線、そのどちらも大切にしながら今はいいバランスで靴づくりを行なっています。
イタリアのデザインと、日本の手仕事の融合
編集部:今、イチオシの靴について教えてください。
オリジナルブランド「ラゴンマ」の、独自製法でつくったストレッチサンダルです。ブランド名はイタリア語で「ゴム」という意味。最大の魅力は、ストレッチ素材を活かしたデザインです。このサンダルは、オリジナルブランドから最初につくった厚底トング(鼻緒)タイプで、2つのストラップの組み合わせで履きやすさ生み出しました。鼻緒のストラップは伸縮してどんな足にもフィットし、甲部分のストラップは伸縮性をなくし、足をホールドしてくれます。また、アウトソール(靴底)にはラバーシャークソールを採用し、3cmの厚みでクッション性に優れ、ギザギザの溝によって屈曲性が高まり、しなやかに歩行を助けます。
ラゴンマが誕生したきっかけは、自分自身も履き心地を実感できるメンズの靴をつくってみたいという想いからでした。ストレッチ素材専用ミシンをラゴンマのために入れて、ミシン工の皆さんを説得しながら使い慣れてもらいました。2013年に立ち上げてもう10年が経ちますが、一度もデザインは変えていません。おかげさまで長くお客様に愛用いただいています。
神戸でしかつくれない靴がある
編集部:神戸の靴づくりの特徴やよさはなんでしょうか。
東京、イタリア、神戸と各地で靴づくりを経験してきました。靴づくりのおもしろいところは、地域ごとに製造の仕方が異なったり、得意な靴のジャンルがあったりするところです。昔から力作業が多い靴づくりの業界は男性中心の職場ですが、神戸は女性が携われるように仕事を工夫して行なってきた歴史があります。全国的に見てもいち早く女性の力でも機械を使えば作業できるようにしていって、そうした流れが世界的に見てもやわらかい神戸の靴文化を生み出しました。薄くて軽くてやわらかいから、足馴染みがよくて靴ずれがしにくい。しかも耐久性に優れているのは、ほかの地域に比べて人工皮革や糊(のり)の技術が高いからではないでしょうか。アレッツォのそばにある糊の会社は海外にも輸出しているほど、日本の糊は接着力が高くて海外からも評価されているんです。神戸は神戸でしかつくれない靴があります。自社工場でのOEMの経験を自社ブランドでの企画・製造にも活かしながら、私たちもアレッツォならではの靴づくりを続けていきます。