2023.11.24
1921年に創業した婦人靴メーカー「カワノ」。長田区に本社・工場を置き、女性の美と健康のため、ファッション性と機能性を備えた靴づくりを行なってきた。自社を代表するブランド「BARCLAY」など、メイド・イン・ジャパンの靴を企画から製造、販売まで一貫して手がけている。100年以上の長きに渡り、ユーザーの支持を得続けてきたその魅力について、デザイナーの伊丹里江さんを中心に、パタンナーの小島竜太さん、管理本部の野田和也さんにお話を伺った。
時代の変化と呼応してきたオリジナルブランド
編集部:カワノの歴史や靴づくりについて教えてください。
野田:大正10年の創業時は「河野護謨(ゴム)工業所」という名前で総ゴム靴をつくっていて、昭和27年にケミカルシューズの製造を始めました。昭和34年に婦人靴分野へ進出した後、革靴分野にシフトしたと聞いています。
伊丹:国産素材の使用と神戸の地場産業の活性化は意識していて、靴底などの見えにくいパーツも近くの協力会社さんから仕入れています。昔は革靴に対して重厚感や高級さが重視されていましたが、今は軽さと楽さが求められているように感じますね。紐の靴よりもスッと履けるローファーが人気。あとは、少し厚底であること。厚いと足が楽だという感覚が、スニーカーのトレンドから来ているのかなと思います。
小島:求められるものはだいぶ変わっていますよね。履いていてきつい靴は避けられる。例えば、パンプスはある程度の締めつけがないと脱げてしまうから、そのあたりのさじ加減はよく考えています。トレンドもターゲット層によって変わってくるので、ブランドごとに対象を見据えて見せ方をうまく変えています。
野田:基幹ブランドである「BARCLAY」は「知的かつ上質」というコンセプト。快適なフィット感と履き心地は機能として持たせながら、時代に左右されないトラッドなデザインです。「VITA NOVA」はコンフォートのブランドで、年齢としてはより上のお客様を対象にしています。少し幅が広めの木型でつくっていて、ベーシックでカジュアルなデザインでご提供しています。
さらりと履いて、気品漂う大人の一足
編集部:今、イチオシの靴について教えてください。
伊丹:2024年春の新作、BARCLAYの「ボリュームグルカサンダル」です。グルカサンダルは革のバンドを編み込んだアッパーのデザインで、2023年春もすごく人気でした。革靴の重厚さとサンダルのかろやかさを合わせ持っていて、見た目よりは軽量。ポイントはソールのこの丸いフォルムです。
小島:靴づくりはまずデザインから入ります。デザイナーの伊丹さんがまず手描きで絵を描いて、パタンナーの私が受け取る。ヒールの高さやつま先まわりの形などについて話し合いながら、ベースの木型を決める。そして、平面の紙型に起こす。
伊丹:その後は革のサンプル帳を見ながら素材を選んで原価計算もして、ファーストサンプルをつくります。自社工場なので、1週間で上がってくるスピード感も強みです。足入れをしては修正して、これでいこうという段階で、そのサンプルからパターンを取って製造を進めます。BARCLAYだけでもシーズンごとに10点ほど新作を出すので、1年で4シーズンと考えると新しいものを出し続ける難しさはありますね。
野田:昔は欧米の展示会で多くの情報が掴めましたが、今は消費者のほうが情報を持つ時代です。BARCLAYの直営店が百貨店に入っていて、店頭でユーザーと接する販売員の声をマーケティングに活かしています。例えば、サンプルを見せて「これは百貨店ではスポーティーすぎるかな」と意見をもらったり。ただトレンドに追従するのではなく、消費者動向を調査しながらブランド独自のデザインを提案しています。
神戸発、世界基準のシューズメーカーとして
編集部:靴づくりの未来に向けて取り組んでいることはありますか?
伊丹:CSR(企業の社会的責任)の面でお話すると、ボリュームグルカサンダルは「エコレザー」と呼ばれる人工皮革を素材として使用していて、環境に配慮した商品開発をしている一例と言えます。エコレザーというのは、裁断時に出た革の余りを捨てずに圧縮して、上からコーティングしている素材なんです。
野田:ユーズドの着物の帯を使ったスニーカー「japonica」もそうですね。2023年秋にリニューアルして発表したばかりで、渋谷でポップアップストアを2週間ほど開いたときには訪日観光客の方々の反応が特によかったようです。若い男性に人気があったものの、メンズは1型しかなかったので今後の展開を考えているところです。
伊丹:帯の柄もそれぞれ異なるので、すべて1点ものなんです。ひとつの帯から5足分くらいしかつくれなくて、デザインの難易度は高いですが、メイド・イン・ジャパンを掲げるカワノらしい靴です。世界の国々にも届けられたらうれしいですね。